建設業界における新型コロナウィルス大流行の影響は多岐に渡り、資材や設備の調達遅れ、安全な工事を行うための追加作業の発生、作業効率の低下、財務状況の悪化などが大きな問題となっています。一方で、新たな調達経路の開拓・確保、新技術の開発・採用など、ウィズ・コロナだからこそ進歩が早まったと思われる分野もあります。

本コラムでは、新型コロナの建設業界への影響、ウィズ・コロナへの適応、そして今後の見通しについてご紹介いたします。

建設業界への影響

資材や設備調達の遅れ

各地で移動・操業の制限が開始されて以降、資材や設備の調達に遅れが出始めました。建設資材が手に入らない、移動制限による輸送遅延、人員不足による影響は多大です。建設業者は材料在庫を持たないのが通常で、資材や設備の調達先は各工程一社に絞っている事が多く、調達ルートに狂いが出ると工事の遅延・停止につながります。

安全な工事を行うための追加作業の発生

パンデミックが始まった頃、州や自治体から工事を自粛するよう要請があるのではと不安が広がりましたが、間もなく多くの州は「建設業は社会生活に必要な基幹産業」と発表しました。同時に、建設業に従事する労働者の安全・衛生環境を確保するための指針も発表されました。

パンデミック以前から建設業は規制の多い業界でしたが、新たな指針に基づき、被用者の安全・健康管理の強化を求められました。元来の商習慣の見直し、経営方針の変更、新型コロナ感染症対策のシステムを作る必要がありました。労働環境の安全・衛生が確保できるまでは工事が再開できず、更に追加作業の発生も業界全体に影響を及ぼしました。

また、現場で新しい作業ルールが出来ると、ゆくゆくは失業に繋がるのではと不安が広がりました。新たなルールには、体調チェック強化、作業中のマスク着用、工程管理の細分化によるソーシャルディスタンスの維持などが含まれます。更には、通勤時の混雑回避、学校のオンライン授業化、自治体の追加要件により、被用者数や労働時間の調整・削減も行わなければなりません。これは、雇用者と被用者の双方に負担となります。

財務状況の悪化

パンデミック発生に伴い、多くの業種の財務状況は悪化し、政府も民間も経費削減に努力し、支出の抑制を行っています。建設業者は材料調達が遅れたり、新ガイドラインに対応する事でコストが増大し、工事の中止・中断の影響も受けています。工事計画の見直しは材料注文の変更・取り消しにつながり、建材業者の財務状況も悪化させ、その影響は資材購入コストの上昇を招き、結果として建設業界全体に影響を及ぼす悪循環に陥っています。

ウィズ・コロナへの適応

コロナ禍の建設業界は着実に問題解決へと向かっています。もともと競争の激しい業種なので適応力・回復力があります。建設業者は新たな建材調達ルートの開拓・確保に尽力し、新技術の獲得・採用を行い、受注を増やすことに努めています。

資材や設備調達ルートの確保

パンデミック以前、資材や設備は限られた業者から随時調達していました。一括購入する事により、調整に費やす時間の削減、割引の恩恵を受けられていたからです。しかし、パンデミックにより既存の調達ルートが崩壊し、工事の継続に支障が発生し始めました。そのため、現在は複数の調達先を開拓し、材料の確保を行っています。一括購入による割引を受けられず、材料調達コストが高くなるケースもありますが、材料切れにならないメリットを優先し、必要な時に必要な物が必ずどこかからか調達できるようにしています。また、ある程度の汎用品在庫を持ち、予想以上に材料入手が難しくなる状況にも備えるように心がけています。

新規分野への参入

新型コロナの影響で事業が立ち行かなくなった業者を合併して、業界への新規参入を行う企業や、新規分野への事業拡大を目指す企業も現れました。合併により効率よく新技術と経験を有する労働力の獲得を行い、顧客基盤の維持・拡大、雇用の継続に成功している業者もあります。競争過多の業界で生き残っていくためには、既存マーケット以外にも目を向ける必要が生まれました。その行動変化は新たなビジネスチャンスを生んでいます。

新技術の採用

新型コロナの感染拡大を抑えるため、政府はリモートでの作業を推奨しています。建設業界で遠隔作業は難しそうに見えますが、可能な限りオフィス業務を在宅勤務に変え、円滑な業務継続に投資を行っています。更には、現場の作業もデジタル化が進んでいます。例えば、作業員の健康記録はクラウド保存され、出勤記録は自動作成されます。材料調達・在庫管理は携帯端末から行え、対人対応を極力避けるようにしています。また、建築情報モデリング(設計をバーチャルリアリティーで可視化)などを活用し、施主・施工主・設計者・材料業者間の情報交換を電子化しています。

今後の見通し

新型コロナの影響で変化に迫られた建設業界ですが、おそらくこの動きは継続していく事でしょう。材料調達・工事完成・支払いの遅延に起因する法的措置が増え、更に革新的なデジタル化の波が訪れ、新たな作業方法の開発、工事そのものの定義が変わる可能性も有ります。

訴訟が増加

工事の遅延・中止に伴い、建設業者は法的措置に訴えるケースが増えると思われます。工事の計画変更に関わる金銭的な責任を誰が負うのか明確にし、可能な限りの補填を受け事業継続ができるようにする必要があります。また、施主から工事遅延の契約不履行で訴えを起こされる事も増え、訴訟費用負担に苦労するかもしれません。政府は刻々と変化する状況に対応する為の新ガイドラインを策定し、企業は対応費用負担を強いられます。地域社会の一員としての責任もありますし、遵守できなければ罰則や業務停止措置が取られてしまいます。

デジタル化の加速

建設業界は近代的技術という点では他の分野に遅れをとっていました。新型コロナ大流行発生後はスピード感が増し、迅速な新技術の採用につなげました。企業は業務のリモート化を進める事により、オフィスス維持費の削減、通勤時間とコストの削減、ビデオ会議による出張コスト削減などを実現しています。現場で労働者の健康状態をデジタル記録・管理、プロジェクトの進捗状況をリアルタイムでデータ化し遠隔地と共有を行い、設計チームのフィードバックを現場に迅速に共有する等、データ共有の利便性向上が進んでいます。今まで以上に情報の互換・機密性が重要となり、そこに新たな技術開発やビジネスチャンスが生まれています。

モジュール工法の増加

政府による感染拡大防止ガイドラインによって現場での人員削減が進む中、別の場所で建物の大部分を組み立てた後に現場へ運び込み、工事現場では繋ぎ合わせる作業を行うモジュール工法への移行は重要な意味があります。天候に左右されず昼夜安全に作業の行える組立工場では人員の分散が容易で、最終組み立てを行う工事現場では同時に作業する人員を減らすことができ、現場に出入りする材料業者の数も減り、現場における感染リスクが下げられます。仮に現場での作業中止の指示を受けても、現場とは別の場所でモジュール生産が継続できるリスクヘッジの意味合いもあります。

まとめ

新型コロナウィルスの大流行は誰も予想していなかった出来事でした。多くの業界同様に建設業界も準備不足、不十分な初期対応、他の業界に比べて技術的にも遅れていました。しかし、元来競争の激しい建設業界はストレスに強く、回復力があり、機知に富んでいます。

当初、対応は後手に回っていましたが、今はより積極的で革新的な対応をしています。新しい技術を採用することは企業とそのお客様にとっても利益をもたらします。社会情勢の変化に適応できないと企業は失墜し、お客様にも多大な迷惑をかける事になります。

今後、建設業界はどの様な困難に遭遇し、変化を迫られるか分かりませんが、多様なお客様の要求に対応でき、引き続き新しい技術の開発を行い、持続可能な物資調達ルートを確保し、そして何より被用者の保護を含む社会的責任を負える企業こそが競争の最前線で利益を得られるのではないでしょうか。